FFXIIの評価で、ネット上では「シナリオがつまらない」という話を聞くことが多かったです。しかし皆が口々にそう言うものの、具体的な話があまり出てきません。有名な「ヴァンではなくバルフレアが主人公」と「脈絡のない『バルフレアーーー!』の叫び」という話のみが先行し、シナリオの問題点の考察があまりなされていないように感じていました。(個人ブログや掲示板によってはいろいろ考察されていますが、全体の見解は曖昧なままです)
なので今回は、FFXIIのシナリオの特徴を書きつつ、何が本作の物語の持ち味で、何が問題だったのか思うところを書き連ねてゆきます。
①戦記物としてのFINAL FANTASY
FFのシナリオといえば、VIIやXのように星の命運をかける規模の戦いを思い出す人もいるでしょう。誰かが命を投げ出して、大切なものを救うシーンを思い出すかもしれません。
本作ではそういった「FFらしさ」とは違ったスタイルをとっています。舞台は星全土ではなく、ふたつの帝国に挟まれた「小国ダルマスカ」。アルケイディア帝国にも行けますが、あくまでも領土の一部です。イヴァリースという世界でも、かなり狭い範囲がFFXIIの舞台です(マップは広いですが)。
またOPシーンを見て分かる通り、FFXIIはファンタジーの戦争を取り扱っています。チョコボによる騎馬隊、兵器と魔法による集団の攻防、こういったシーンは従来のシリーズではあまり描かれていません。悪しき「帝国」が存在しても、あくまで小さな組織の反撃が描かれる程度です。そのかわり、登場人物が世界に与える影響は非常に大きく、ヒーロー級同士の戦いがそれまでのFFの特徴です。一方FFXIIは個々の役割は大きくなく、登場人物達の活躍も大きな歴史の一幕に過ぎません。名前もない多くの人物が泥臭く戦ってゆき、イヴァリースの歴史を作り上げていっています。
そういった意味では、この物語に主人公はいません。歴史から見ればオンドール公が主人公かも知れませんし、ラーサーこそ主人公かもしれません。そういった中でアーシェ達の冒険に巻き込まれただけの普通の人間である「ヴァン」が主人公なのは、FFXIIの特徴を捉えていると思います。
②政治的駆け引きと陰謀にまみれた物語
FFXIIの物語は主人公パーティだけのものではないことが分かったと思います。実際にプレイすると主人公サイドの話だけでなく、物語の合間合間に帝国ソリドール家やジャッジ内での確執が描かれます。それがだんだんと膨れ上がり、最終的には帝国の暴走へと発展します。統一された悪の組織ではなく、それぞれが自分の思想を持ち、それが織り交ざって物語を生み出しています。
帝国だけではありません。例えばアーシェの協力者となるオンドール公も、アーシェの考えの裏をかきながら行動します。アルケイディア帝国と敵対するロザリア帝国も、ダルマスカの動乱へ秘密裏に加入します。
さらに後半ではある強大な種族達がアーシェ達に力を貸します。ネットでは彼らが諸悪の根源で本来ラスボスのポジションではないかと囁かれていますが、力を貸すだけで物語にはほとんど加入しません。しかしながらアーシェを利用し、自分たちの目的を成そうとします。
こういったように、いろんな人物の思惑が複雑に絡み合い、大きな物語を作り上げています。
・・・あれ?ここまで聞くと、FFらしくはないけど面白そうな物語じゃない?と思う人もいるでしょう。派手さはないが綿密で徹底している、それがFFXIIです。ならば何故、「シナリオが悪い」と言われるのでしょうか?
③滞ってしまったパーティメンバーの「主体性」
前回FFXIIのプロデューサー松野泰己氏が退社したことを書いたと思います。その後サガシリーズの河津秋敏氏がプロデューサーを努め、開発延期を重ねたFFXIIを完成にさせました。シナリオは松野泰己氏が残したプロットを元に書いたとアルティマニアには綴られています。ネットでは根も葉もない噂が錯綜していますが、いちプレイヤーとして見るにFFXIIの物語の質が変わるのはレイスウォール墓所~リヴァイアサン艦隊での決戦後の時点です。それまでは登場人物同士が主体的に動き、感情を露わにしてぶつかり合っていますが、ガリフ以降は誰かに言われて◯◯へ行くという、いわゆる「お使い」的なイベントが増えてゆきます。イベント量もはっきりと減っており、「アルティマニアオメガ」で10章に分けられたシナリオの半分をここまでで消化しています。ページ数で言えば57:60…。しかしダンジョン数・フィールド数は後半の方が明らかに多く、だいたい2/3程度は残っていたはずです。(もしかしてここまでで、何らかの「時間切れ」になってしまったのではないでしょうか…?)
同時に、プレイヤー達とそれを邪魔立てする敵との戦いもかなり少ないです。ガリフ以降自分の意志で戦う敵は神都ブルオミシェイス・ドラクロア研究所・大灯台頂上・最終決戦…これだけです。後はほとんどモンスターなので、シナリオを盛り上げるために必要な「ぶつかり合い」が全く足りません。
シナリオで最も大切な物は「葛藤」だと言われています。これは心の中で悩むことではなく、主人公が目的を達成しようとした時に障害が現れることを指します。主人公達が能動的に動くも問題が発生し、それをどうにか解決しようとすることで、物語が観客の心を惹きつけるのです。しかしFFXIIの後半は主人公たちが受動的であり、彼らを邪魔立てする存在も僅かです。それゆえ見る側を揺さぶること無く物語が終わってしまいます。
この結果、お使いを頼まれ大きなイベントの用意されていないダンジョンをいくつも渡って、ようやく到達した場所で、またお使いを頼まれるという、致命的な問題が発生します。シドの大立ち回りや大灯台頂上のせめぎ合いなど、本来であれば密度の高いシナリオの部分もあるのに、後半のイベントの足りなさがそれを薄めてしまっています。
実はこの問題、プレイ方法によっては解決することが出来ます。それはプレイヤーが主体的に探索やモブハントをすることです。本作は本筋に関わらない一般キャラクターの台詞までしっかりと練られているので、寄り道をすればするほど物語が充実してゆく構造になっています。キャラクター達に足りない主体性をプレイヤーが自らの冒険で補うことでFFXIIは完成してゆくのです。本作の海外評価の高さの要因はこれではないでしょうか?実際自分も二周目にそういった遊び方をして時は、FFXIIの評価が逆転しました。ただ、それは多くの人がFFに望んだものではありませんでした(どちらかと言えば、国内ではその役割はドラクエがそれを担っています)。
④個人的にこうした方が良かったと思うこと
FFXIIでは重要人物なのに見せ場が足りずに終わってしまったキャラクターが何人かいます。序盤にライバル敵ポジションで登場したのに、その後はモブ扱いで退場してしまった「バッガモナン一味」。帝国の象徴であるのに、結局主人公達と戦わなかったジャッジマスターの「ドレイス」と「ザルガバース」。ロザリア帝国唯一の重要人物であるのに、出番がたった二箇所しかない「アルシド」。そしてゲームロゴになっているのにもかかわらず、政治的駆け引きによって雁字搦めになってしまったジャッジマスターの「ガブラス」。
特にガブラスはヴァン、アーシェ、バッシュに因縁が深い人物であり、物語の引き金&幕引きの役目を与えられた人物です。FFXIIの中核にいる人物であるはずなのに、「犬」扱いされて物語の外にはじき出されてしまっています。これほど勿体無いことはありません。例えば終盤大灯台でガブラスがヴァンとアーシェのヘイトを貯めるシーンがあります。あれを早い段階で用意出来たのならば、彼らの心境をもっと揺さぶれたはずです。
本来活躍するはずだった彼らに役目を与えることで、物語は盛り上がりを得られたのではないか…と思ってしまいます。具体的に挙げるならば、神都でガブラスがラーサーを連れて帰る時点でヴァン達との初顔合わせ、帝都までの旅路でバッガモナンとの再戦、主人公達を「測る」ためにザルガバースが単独で戦いを挑むシーンはあっても良かったと思います。案を考え始めるときりがありませんので、とりあえずこんなところで。
例の種族関係も、もう少し違った役割があっても良かった気も。最終的にアーシェは彼らに反旗を翻したので、その後敵対関係になっても道筋的にはおかしくないでしょう。もしくは帝国側についた「ヴェーネス」をより恐ろしげに描かれていても良かったのかもしれません(どうしても主体がヴェイン&シド>ヴェーネスだったので)。ただ帝国とダルマスカの戦いがメインであるため、扱いが難しそうです。
一方主人公であるヴァンがヒーロー然していたら良かったとは個人的には思えません。彼がもっと自分の意志で動いて物語を動かしてゆく必要はありますが、もし彼がレイスウォールの血を引き継いでいる設定だとしても、本筋の薄さの解消には繋がらないはずです。また、そういう風に従来のFFに近づけても、彼やイヴァリースの持ち味を弱めてしまう可能性もあります。
(あ、「バルフレアー!」はよく分かんないですw 初回は大して気にしませんでしたし、あれには深い意味はなさそうです)
はぁ…疲れた。長々と書いてしまった。ズラーッと書いてきましたが、別に自由気ままな見解ですので、初プレイの人はあまり真に受けず、自分なりに楽しんでください。…まぁぶっちゃけFFXIIの大きな魅力はシナリオ以外のところにあるので、話を追うことをメインとしなければ楽しめるのではないでしょうか?リマスター版は追加シナリオを今のところ予定していないそうですが、発売日が来年のいつ頃か決まってないこと、まだ開発中であるそうなので、僅かな奇跡を期待しつつ、次の情報を待ちたいと思います。(FFXIIの膨大な情報量を持ってして、整合性がとれるかどうかの問題からは目を背けつつ…)
ではでは。
ではでは。
2017.7追記:なかった\(^o^)/