2017年4月16日日曜日

『けものフレンズ』という物語を追って

どうも、ノンジャンル人生です。今回はゲームのことは置いておいて、今冬に大ブレイクしたアニメ『けものフレンズ』について書いていこうと思います。あまりアニメの知識はないですが、やはり書いておかねばと思い、キーボードを叩いています。ここまで人気に至るまでの状況を忘備録もかねて整理していこうと思いますので、少し長めですがお付き合いくださいませ。


ニコニコ動画:第一話「さばんなちほー」より

まず前提として、けものフレンズとはなんぞやというところから。このアニメはオリジナルアニメとはちょっと違い、「スマホゲーム」「アニメ」「コミック」などのメディアミックス作品『けものフレンズプロジェクト』の一部として展開されたものです。「女の子の姿になった動物たちが繰り広げる大冒険!」というキャッチコピーの通り、動物をモチーフにした女の子のキャラクターたち=フレンズにスポットを当てています。

多分これだけ聞くと、『艦これ』後に出現したフォロワー作品に思えます。何かを美少女に擬人化させるメディアプロジェクトは、ここ数年の間に大量に出現しては次々と消えていきました。そしてけものフレンズのゲーム版も例外に漏れることなく、ゲーム版がアニメ開始直前にサービスを終了しています。大量に埋もれた作品群のひとつ、それがけものフレンズのスタート地点だったのです。

そんなこんなで始まったけものフレンズですが、やはり最初はほとんど話題になりませんでした。アニメ『けものフレンズ』は少人数体制で制作された3DCGアニメであり、書き込み技術が高いレベルにある同時期のアニメと比べると見劣りする部分が目立ちます。そして第一話は主人公の「サーバル」と「かばん」が出会い、冒険して立ちはだかる敵を倒すという、徹底したテンプレ展開で進行します。会話劇はまるでNHKの子供向け教育アニメのような内容であり、サーバルとの出会いのシーンでは視聴者を置き去りにします。ニコニコ動画で配信された生放送後のアンケートでも、5段階評価の「1:とても良かった」が41%と低めでした。

一見スタートダッシュで躓いた本作でしたが、2話以降になると状況が少しずつ変わってきます。戦闘描写はしばらく控えめとなり、サーバルが子供のようにはしゃいだり褒めたりする様子が「IQを溶かすアニメ」として話題になり始めます。一方明るく憂いのない本編とは裏腹に、エンディングで廃墟の遊園地が映し出されたことで、この物語は「ポストアポカリプス(※)作品なのではないかとSNSで拡散され始めます。

※文明が滅んだ後の世界を描いたジャンル。

その後回が進むに連れ評価が大きく伸び、4話の段階でアンケート評価1が95%を突破します。Twitterではけものフレンズの世界観を考察するタグ(#けものフレンズ考察班)がどんどん拡散され、「このアニメが適当に作られたものじゃないぞ」の噂が広まります。同時に「すごーい」「たのしー」など、あたまをすっからかんにして見られるアニメとして認識され、急速にミーム化され始めました。

けものフレンズは見る人によってまったく違った側面が目に映る作品です。考察要素やIQが溶けるのがすべてではありません。少女達の物語にほっこりする癒やし系作品としての側面、各地方を巡り出会いと別れを繰り返すロードムービーとしての側面、動物達の特徴や習性を学べるドキュメンタリーとしての側面、あるいはネタが乗りやすいアホアニメとしてとしての側面も挙げられます。


すしざんまい」のポーズ

特にニコニコ動画ではコメントでシーンにツッコミを入れる文化が盛んなため、ツッコミ不在の本作とは抜群に相性が良いようです。時事ネタを取り込んでみたり、コメント職人と呼ばれる人々が手の込んだコメントアートを作ったりと、1話を見るたびに違った楽しさを提供してくれます。(まぁしかし、一時期ネタであっちもこっちも伏線だとコメントされていましたが、まさか本当に1話に綿密な伏線が用意されているとは、書き込んだ人達は夢にも思わなかったでしょうね…)

もうひとつ重要な点として、二次創作がしやすいのもけものフレンズの特徴のひとつです。本作の物語は、

①サーバルとかばんとラッキービーストが新しい地方に辿り着く
②その地方に住むフレンズと出会う
③フレンズ達が抱える問題をかばんのアイデアで解決する
④次の地方へ向かう

というシンプルな構造です。内容も、物語を進行しフレンズの特徴を伝えるために必要なものに絞っており、心情などを細かく描写することはありません。世界観に至ってはほとんど説明せず、背景として描かれるものと、会話の中にぽろっと出てくる単語から推測するしかありません。しかし脚本そのものは筋が通っており、毎回ゲストとして出て来るフレンズ達と仲良くなる様子を丁寧に描いているため、結果キャラクターの個性を際立たせつつも、世界観や関係性などを二次創作で埋めるだけの余白を用意するのに成功しています。

例えば最終回に近づく頃になると、サーバルとかばんの別れが迫っていると感づいた創作者達が、彼女達の心境を想像して描いた漫画やイラストを書くようになりました。取り残されたサーバルがかばんを思う漫画や、さばんなちほーでサーバルがひとりかばんの帰りを待つイラストなどが、彼らの手によって生まれました。

しかし実際のアニメで別れを直接示唆する描写は、最終回以外だと10話でのかばんの台詞(=海の外に仲間を探しに行きたい)のみです。一方エンディング曲の二番には別れをほのめかす歌詞があり、そういった限られた情報の中で考察班や創作者達は想像を膨らませていったのです。
けものフレンズ「二次創作に関するガイドライン」

こういった二次創作を受け止める懐の広さを持った本作ですが、例え二次創作が大きく膨れ上がっても本編がまったくブレることなく完結出来たのは、けものフレンズ自体の脚本の完成度が高かったからだと思います。最終回に辿り着く頃には、それまでの物語に伏線が張り巡らされていたことが分かりますし、最終回自体が考察の回答編としての役割を果たしていました。そして広がっていった考察が、けして的外れではなかったことも判明しました。

幾つかの要因が重なって大ヒットしたけものフレンズは、脚本・世界観の構造やネットの巻き込み方など学ぶべきところが非常に多く、視聴したことで得たものは大きかったです。私は途中から視聴し始めた組ですが、すぐにドツボにハマってしまいました。どちらかと言えばアニメ追うのが苦手な自分でも、毎週見るのが楽しみでした。

けものフレンズのアニメは最終回を迎えましたが、新作映像など今後も展開されていくそうなので、今からどんなものが見られるか楽しみです。この作品と出会えて、とても良い時間を過ごせたと思います。

ではでは。